キリンの兄弟(8) 脅迫
連続冒険小説(第八回) 作:入来院重宏
第8章 脅迫
「・・・乳豊関って僕の四股名をつけてくれた力士?」ブラッキーが尋ねた。
「うん、僕ら兄弟の四股名をここでその場で作ってくれたんです。今日はキリン三兄弟のテーマ曲まで作ってくれました」
「テーマ曲?」クッキーが驚いた。
「さっき乳豊関の家で聞いてきたばかりです。今日は兄さんにそれを報告しに来たんです」
「変わった力士ですね」ブラッキーも乳豊に興味をもったようだった。
「とにかく変わった力士さ。肌はそれこそ牛乳のように白い」とクッキー。
「胸のふくらみ方も尋常じゃないし」とニッキー。
「そんなに肌が白いんですか。是非会ってみたいな」とブラッキー。
「いつでも紹介します。もしかしたら、外で僕らの会話を聞いているかも知れません」とニッキー。
「ははは、大いにあり得る。振り向くとそこにいたりして」
そういうとクッキーは後ろを振り向いた。
残念ながらそこに乳豊はいなかった。
「ブラッキー、僕は原種の剥製を見てみたい。この目で二本角があるかどうか確認したいんだ。どこに行けば原種の剥製を見ることができるの」
「ニッキー、大事なことを言うのを忘れていた。原種の剥製のことは忘れて欲しい。と言っても無理だろうからここだけの話にして欲しい。誰にも話さないで欲しいんだ」
「どうしてだいブラッキー。そういえば、僕にも原種の剥製のある場所は知らないほうがいいって言ってたね。どうもタテガミキリンの本が国内で手に入らないことと関係がありそうだけど」クッキーが間に入った。
「クッキー先輩、実は僕、何者かに狙われているんです」
ブラッキーはしばらく言うか言うまいか考えていたが思い切って話すことにした。
「狙われているってどういうこと」
「キリンの歴史についてほじくり返すなという脅迫文がありました」
「脅迫文?」
「原種が3歳程度の知能しかない低能な動物だったということをたぶん隠しておきたいんだと思います」
「3歳程度の知能?!」
クッキーとニッキーは驚いて顔を見合わせた。
「人間が単一人種政策を推し進める前の時代まで、僕らキリンのご先祖様に限らずゾウや熊、ライオン、かばその他もろもろのご先祖様たちもそろって犬・猫・牛と同じように低能動物だったそうです」
「犬や猫って、それじゃまるで僕らのご先祖様はペット並みの知能しかなかったってこと?」ニッキーはまた椅子からずり落ちそうになった。
「そう。人間は放っておいたら絶滅の恐れがある大型動物を27種類選び、人工的に繁殖させることにしたんです。僕らキリンのご先祖様もめでたく選ばれたんです」
「なるほど、人工繁殖中に遺伝子操作をされて知能が高くなったということか」クッキーはうなずいた。
「小型化も目的だったようです」
「原種は僕らより大きかったの?」
「剥製はもの凄く大きかったです。僕らの身長のゆうに3倍はありました」
「さ、3倍!」ニッキーは今度は飛び上がって驚いた。
「現在のキリンの身長の平均は170センチですが、当時の原種の身長は5メートルあったといいますからやっぱりちょうど3倍です。小型化の目的は食料の量が少なくてすむようにということと、人間が便利なように自分たちのサイズに合わせたということのようです。ゾウや熊なんかも今よりずっと大きかったと思います」
ブラッキーはコーヒーのお替りを注文した。
「ブラッキーで、おっともといブラックで」
「ははは」
「ははは」
ブラッキーがコーヒーを飲んでいる間、クッキーはしばらく頭の中を整理していた。
沈黙に耐えられずニッキーが質問をした。
「犬・猫・牛は今でも低能動物だっていうことは、彼らは27種類の中に選ばれなかったんだね」
「犬や猫はペットとして、牛や豚は人間たちの食料として飼育されているからもともと絶滅の心配がなかったんです。人間が僕らキリンやゾウや猿等々保護する対象動物に知能を与えたのは、これは逆説的ですが彼らが「高い知能のある動物を保護する習性がある」というのが理由のようです。
もうひとついうと人間が自ら異人種間の交配を進めたのも自分たち人間自身の進化を促すことが大きな目的でした。彼らの「太陽を神」とする宗教の教えは突き詰めていくと「太陽が宇宙を支配している」ということです。これも逆接的ですが、人間が宇宙を支配することにより「太陽が宇宙を支配する」と考えられています。人間は「自分たちは太陽の子である地球の一部である」と考えているからです。人間は宇宙を支配するという高邁な目的のため自らの進化を最優先事項としました」
しばらくの間沈黙が流れた。
今度はクッキーが口を開いた。
「自分勝手な人間のせいで僕らはこんなにいろいろな種類がいるんだ。僕のように首が長いのや、マッキーのように斑模様なのや、ニッキーのように二本角なのや、ブラッキーのように黒いのや、茶色や白いのや黒白ブチや足が長いのや少し大きいのや小さいのやエトセトラエトセトラ」
「犬を見てください。犬ももともとは一種類だったと考えられています。長い間に人間に飼われているうちにいろいろな動物と掛け合わされてあんなにたくさんの種類になったんです」
クッキーとニッキーはしばらく黙ってブラッキーを眺めていた。
二人はブラッキーが何か言うのを待っていたけどブラッキーは黙ってコーヒーを飲み続けていた。
業を煮やしてニッキーが質問した。
「ブラッキーを脅迫しているのはいったい誰なの」
「わからない。もうこの話はこれっきりにしましょう。あなたたち二人を巻き込みたくないですから」
夜も更けて、さらに賑やかな「足長」の店内、彼らのテーブルのまわりだけやけに重い空気が漂っていた。
(つづく)
この物語はフィクションです。登場人物や地名等は実在の人物・動物等、実際にある地名等となんら関係ありません