キリンの兄弟(7) ノアの方舟
連続冒険小説(第七回) 作:入来院重宏
第7章 ノアの方舟
・・・かんぱーい・・・・・・いやーご無沙汰しております・・・・・・今度入った営業マンときたら・・・
ここ「足長」は仕事帰りのキリンたちで今日も大いに賑わっている。
クッキーとブラッキーは軽い夕食を済ませコーヒーを飲んでいた。そこにニッキーが現れた。
クッキーはブラッキーに弟のニッキーを紹介した。
「あれ、何か変だと思ったら、ニッキー、帽子はどうした?」
「兄さん、僕、もう帽子は被らない」
「!そうかぁそれはよかった。なかなか勇ましくていいぞ」
「兄さん僕の二本角勇ましく見える?」
「うん見える。かっこいいよ。ブラッキー、信じられないかもしれないけど、ニッキーはもうずーと前から四六時中帽子を被って二本角隠していたんだよ。僕にはニッキーが帽子を被っていないことが信じられないよ」
「へーそうなんですか、もったいない。そんな素敵な二本角を帽子で隠していたなんて」ブラッキーはニッキーの頭と二本角をまじまじと見た。
他の「足長」の客たちも帽子の乗っかっていないニッキーの頭を珍しそうに眺めていた。
「ほーカッコイイなぁ」などとあっちからもこっちからもニッキーの二本角を羨むため息が聞こえてくるのでニッキーは誇らしいやら照れ臭いやらだんだん居心地が悪くなってきた。
「そういえばブラッキー、原種はもしかしたら二本角だった?」
「そうなんです、それがはっきり思い出せないんです。ニッキーの二本角を見たとき「見覚えあるぞっ」って思ったんですけど、「原種の剥製に二本角があったか」って聞かれると・・・どうも自信がないんです」
「原種って何?」ニッキーが尋ねた。
「ニッキー、僕らキリンは昔、首が長くて斑模様だったんだそうだ。そのうえ、満月の夜に吼えなかったらしい」
「いったい何のこと」
ブラッキーはニッキーにタテガミキリンの著著「キリンの子はキリンか」と「キリンは月夜に吼えない」の概要や自分が見た原種の剥製の話をした。
「原種がクッキー兄さんのように首が長くて、マッキー兄さんのように斑模様なら、きっと僕のように二本角のはずだよ。そうじゃなければそんなの不公平だよ」
「ごめんニッキー、僕もじっくりと見たわけじゃないんだ。しかも頭はずーと高い位置にあったからてっぺんまでよく見えなかったんだ」
ブラッキーはすまなそうに言い訳をした。
「ブラッキー、生きた原種は地上に存在しないのは本当なの」ニッキーが尋ねた。
「そう、そこが実はポイントなんだ。地上、ようするに地球上には存在しないと言われている」
「それは、地球外には存在するってこと?」
「そうなんだ。ちょっと話は長くなるけどいいかい。僕が最近読んだ本によると、昔、人間にはいろんな種類がいたんだそうだ。白いのや黒いのやその中間や、目の色や髪の色もいろんな色があったんだそうだ。しかも顔つきや体つきも実にいろんな種類があったんだそうだ。その違いを「人種」と言ったそうだ。ようするに人間にはいろんな人種があったんだそうだ」
「僕らキリンとまったく反対だね!」ニッキーが驚きの声をあげた。
「そうなんだ。人間といえば背の高い低い、太った痩せたの違いはあっても肌や目や髪の色の違いとか顔や体のつくりに大きな違いはないよね。これは現在の人間は長い時間をかけて人種の違う者同士をかけ合わせて作られた結果なんだ」
「なんで人間はそんなことしたの?」
「人間はずっと長い間戦争ばかりしてきたんだ。いろんな人がいろんなことを考えていろんなことをやってみたけどどうやっても戦争をなくすことができなかったんだ。結局、「人種」をなくすことが人間同士の争いをなくす最終手段だったんだよ」
「ちょっとまって」クッキーがさえぎった。
「人間の戦争は必ずしも人種間の争いだけじゃなかったはずだけど」
「そのとおりです。ご存知のように人間の世界にも僕たちキリンと同じように宗教があります。一言でいうと人間の宗教は太陽を神とする宗教です。僕らキリンの宗教が月を神とするのとこれも全く正反対です。でもこれも今読んでいる本によると、昔人間の宗教は一つではなかったんだそうです。というより、人間の世界にはたくさんの宗教があったようです」
「太陽と月以外にも、火星とか金星とか水星とかを神としていた宗教があったということ?」不思議な話にニッキーは身を乗り出してきた。
「いや、うまく説明できないけど、むしろ僕らの知っている宗教とは全然別物の宗教だと思ってださい。クッキー先輩が言っていたように人間の戦争は人種間の争いよりむしろ宗教間の争いが主だったようです。他の宗教を信じる者同士がお互いに相手を排除し合っていたということです」
「たくさんあった宗教がお互い戦争し合って、結局「太陽を神」とする宗教が勝ち残ったということかっ!」ニッキーが叫んだ。
「いや、そうじゃないんだ。戦争の基本は国と国との争いだ。国もそれを形づくっている根幹は宗教だったり人種だったりするわけだけど、何百年か前のある時期、二つの宗教の対立が全世界を巻き込んで、とんでもない戦争に発展したんだ。最終的に勝利した国が圧倒的な力を持つ大国になったわけだけど、その大国の最高権力者がもう二度と戦争はごめんだということで、その原因となった宗教を捨てる決心をしたんだ。そして他のすべての国にも宗教を捨てることを命じたんだ。「自分たちも宗教を捨てるからお前たちも捨てろ」ってわけだね。ただ、現実問題として人間もキリンと同じで、やっぱり何かすがることのできる宗教がどうしても必要だったんだね。そこで、最高権力者はまるで法律でも作るかのようにまったく新しい「太陽を神」とする宗教を作って、自分の国はもちろん、すべての国に対して古い宗教と差し替えることを命じたんだ」
「・・・」
「・・・」
「と同時に最高権力者は人間の争いの種はすべて取り除こうと考え、人種の壁をなくすためにすべての人間に対して同じ人種間の結婚を禁止したんだ」
「・・・」
「・・・」
クッキーもニッキーもブラッキーの突拍子のない話に驚いて口をあんぐりあけて目をぱちくりしていた。
「ところが、話はこれで終わらない。すべての国が古い宗教を捨て、単一人種化への道を歩むはずだったけど、命令に従わなかった国があったんだ」
「それは当然だと思う。僕がもし人間だったら絶対にそんな命令に従わないよ」クッキーがそう言うと、ニッキーもうなずいた。
「それで命令に背いた国はどうなったの?」ニッキーが心配そうに尋ねた。
「地球から追放された」
「えー!」クッキーが叫んだ。
ニッキーは驚きのあまり椅子から転げ落ちた。
「というより正しくは地球から逃げ出した。小さな国だけど全国民が地球から逃げ出したんだ」
「どこの星に行ったの?」テーブルの下からニッキーが尋ねた。
「それがわからないんだ。そして実はこれが重要なことなんだけど、彼らは地球から逃げ出すとき、地球のありとあらゆる物を持ち出したんだ。もちろん動物も植物も考えられるものすべて持ち出した」
「まるで「ノアの方舟」だね。ブラッキー、君がさっき僕らキリンの原種が地球上にはいないとあえて言っていたのはそういうことだったのか」合点がいったとばかりクッキーは右前足でテーブルを叩いた。
「はい、長い話になって申し訳なかったです」
そう言うとブラッキーはコーヒーで喉を潤した。
「地球から逃げ出したその国の人はどういう人種だったの。白かったの?黒かったの?」クッキーが尋ねた。
「肌の色でいえば今現在地球にいる人間とはまったく違います。牛乳のように真っ白だったそうです」
「あっ!」とニッキーが叫んだ。
「乳豊関だ!」クッキーが叫んだ。
(つづく)
この物語はフィクションです。登場人物や地名等は実在の人物・動物等、実際にある地名等となんら関係ありません