キリンの兄弟(6) ひまわり農園主
連続冒険小説(第六回) 作:入来院重宏
第6章 ひまわり農園主
「おい、マッキー起きろ。朝だ」
マッキーは眠い目をこすりながらゆっくり瞼を開けると、目の前にエプロン姿のレヴィが左手にフライパンを持って立っていた。右手は鼻をほじっていた。
「さぁ楽しい一日の始まりだ。顔を洗っておいで。朝飯食べながら作戦会議だ」
ニッキーは洗面所にいくと冷たい水に顔を突っ込んで眠気を醒ましたけれど、慣れない異国の地ではしゃぎ過ぎた疲れが出たのか、身体も頭もいまひとつしゃきっとしなかった。
『作戦会議?どうもレヴィは鼻をほじるのが趣味のようだ』マッキーは眠い頭でそんなことを考えた。
テーブルに着くと目の前には素晴らしいごちそうが並んでいた。
「レヴィ、朝から凄いごちそうだね。お客さんでも来るの」
「朝から何を寝ぼけたこと言ってるんだ、お客さんは君じゃないか。昨夜は君の「一人エデンの東」のおかげでおばあちゃんの嬉しそうな顔を久しぶりに見ることができた。ありがとう」
「いいんだよ。実のところ君のおばぁちゃんにあれほど喜んでもらえるとは思ってなかったんだ」
「ところでマッキー、「ニュー・シネマ・パラダイス」のときも思ったけど、俺は昨夜の「エデンの東」を見て確信した。君は俳優になるべきだ。俺にいいアイデアがある。ひとつ君のその才能で一儲けしないか」
「レヴィ、僕はずーとこの島を訪れるのが夢だったんだ。今は夢が叶って満足してる。今日からは本腰入れて仕事するつもりさ。ひまわり農家といい契約ができたら国に帰るよ」
「ひまわりの件は俺に任せておけ。休暇はあとどのくらい残ってるんだい。すぐ帰国しなければいけないのか」
「一ヶ月くらい休むつもりだけど」
「一ヶ月か・・・ところでニッキー、フェリーニの「道」はできるか」
「ザンパーノ、ザンパーノ、オフコースできるよ。大好きな映画さ」
「他に何ができる」
「イタリア映画では「山猫」とか」
「ヴィスコンティは貴族趣味で島じゃ受けない。イタリア映画にこだわらなくていいよ」
「ゴッド・ファーザーはどうだい」
「いいねぇ、俺も大好きだ。1か2か」
「どっちでもOKさ」
「『ニュー・シネマ・パラダイス』、『エデンの東』、『道』、『ゴッド・ファーザーの1と2』これだけあれば一月もつだろ。あとはマネージャーの俺に任せてゆっくり朝飯食べてろ。ちょっくら出かけてくる」
レヴィはマッキーに負けず劣らず「こうと思ったらすぐ行動する男」であった。
「それにしても朝からいろんな料理を作ったものだ!」
マッキーは一人になって、あらためて食卓に並んだ料理を眺め驚きの声をあげた。
・オリーブオイルがたっぷりかかった地中海風サラダ
・わかめスープ
・だし巻き卵
・ボンゴレスパゲティ
・子羊のピザ
・ツナとハムのサンドウィッチ
・クロワッサンとフランスパン
・イクラとたらこと鮭のおにぎり
・ハンバーグ
・初めて見る料理①(見たことのない野菜を炒めて酸っぱい匂い)
・初めて見る料理②(焼いてあって一見硬そうだが中はとろとろ)
・初めて見る料理③(海老に変な黄色いつぶつぶが振りかけてある)
・初めて見る料理④(カニの足とキノコみたいなものが入っている)
・山盛りの生ホウレンソウ
ほかにデザートとして
・プリン
・イチゴの乗ったミルフィーユ
・初めて見るデザート(チョコレートに見たことのない果実が浮いている)
どれもこれも美味しそうでマッキーはどこから手をつけようか迷ったが、とりあえず生ホウレンソウをむしゃむしゃ食べたら悲しいことにお腹が一杯になってしまった。
「サルヴァトーレッ!」
おばあさんが目を覚ましたらしく、レヴィを呼ぶ声が聞こえた。
マッキーはおばあさんの部屋に行き、レヴィとした話をおばあさんに話した。
「キリンさん、どうかサルヴァトーレの友達になってやってくださいな。ああ見えてあの子はとても優しい子で毎日私の世話を本当によくやってくれるんです。遊ぶ暇もお金もないからお嫁さんは来てくれないし友達もめっきり減っちゃってかわいそうでかわいそうで」
「おばあさん、僕はもうとっくにレヴィの友達ですから。彼が優しい心の持ち主であることは玄関のチューリップを見てすぐわかりました。僕もしばらくこの島に滞在することになりそうです。おばあさん、僕のほうこそどうぞよろしくお願いします」
「そうかい、そりゃあよかった。さっそくですまないけれどさっきから膀胱が破裂しそうなんだよ、便所までおぶって連れてっておくれ」
「お安い御用です」
マッキーはおばあさんをおぶって便所に連れていった。
『レヴィも結構苦労しているんだなぁ』
意外と重たいおばあさんをおぶって、あらためてマッキーはレヴィを見直したのだった。
2時間くらい経ったろうか。レヴィが帰ってきた。
レヴィは空から帰ってきた。ヘリコプターに乗って帰ってきた。
ギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュル
表があんまりうるさいのでマッキーが外に出てみるとちょうどレヴィがヘリコプターから降りてきたところだった。マッキーを見つけると手を振って何か叫んだけどヘリコプターがうるさすぎて何を言っているのかわからなかった。
ギュルギュルギュルギュルー・・・プッピー
ヘリコプターのエンジンが止まった。
しばらくすると操縦者も降りてきた。ヘリコプターを操縦していたのは猿だった。
レヴィと猿がマッキーの方に向かって歩いてきた。
マッキーは「サルが猿と帰ってきた」とどうしても言いたい衝動に襲われたけどぐっと我慢して飲み込んだ。
「レヴィお帰りなさい。さっきは何て言ってたんだい。ヘリコプターがうるさくてわからなかったよ」
「ああそうか、「サルが猿と帰ってきたよ」って言ったんだよ。あはは」レヴィが大笑いした。
「ぐふぃふぃーふぃふぃ」猿もバカみたいに一緒になって笑った。
『言わなくて正解だった』マッキーもとりあえず笑った。
「マッキー、ひまわり農園主を連れてきたよ。友達の「手長オランウータン」だ」
「はじめまして。ハリチン共和国で兄弟三人仲良く生花店を経営しているマッキーです。縁あってレヴィにお世話になっています。よろしくお願いします」マッキーはぺこりとお辞儀をした。
「こちらこそよろしくお願いします」手長オランウータンは長い両手で万歳をしながらお辞儀をした。
マッキーと手長オランウータンは名刺交換をした。手長オランウータンの名刺には「手長オランウータンひまわり農園 農園主 手長オランウータン」と書かれていた。
マッキーはピンッと閃いた。
「手長オランウータンさん、「手長オランウータン」というのはなんとも長くて言い難い名前ですね。僕が四股名をつけてあげましょう。ええあだ名のことです。「テナガオランウータン」を縮めて「テナランタン」なんてどうです」
「テナランタンですか、うーんなんだかまるで熱帯魚みたいですなー」
手長オランウータンは無意識に両手をブランブラン回しながら困った顔をした。
「いっそのこともっと縮めて「テラタン」はどうだい」レヴィが間に入った。
「気に入った。わしそれ気に入ったで。「テラタン」それでいこっ」
手長オランウータンは指ぱっちんすると大きな歯を出して満足そうな顔をした。
マッキーは「テナランタン」が却下されて不満だった。
「マッキー、そう不満そうな顔しなさんな。お前が「テナランタン」って言ったから俺は「テラタン」を思いついたんだから。「テラタン」はいわばお前と俺の共作だ。この調子で仲良くやっていこうぜ相棒」
レヴィは右手で鼻をほじりながら調子に乗って左手でパシパシマッキーの肩をたたいた。
『痛いよ、レヴィ。・・・みっともないから人前で鼻ほじるのやめなよっていつか必ず注意してやろう』マッキーは堅く心に誓うのだった。
(つづく)
この物語はフィクションです。登場人物や地名等は実在の人物・動物等、実際にある地名等となんら関係ありません。