キリン社会保険労務士事務所 コラム

超短編シリーズ⑦「新しい友人」

久しぶりに新しい友人ができた。しかも宇宙人である。
正しくは、自称『宇宙人』である。
ずいぶん昔にも自称『宇宙人』君の友達はいたけれど、いつの間にか疎遠になってしまって、今はどこで何をしているのかも分からない。
もしかしたら、故郷の遠いお星様に帰ってしまったのかもしれない。

さて、この新しい宇宙人君と出会ったのは、銀座の某有名楽器屋さん。
僕がギターの試奏をしていると、日本人の顔をした25歳くらいの慎重170センチ、中肉中背、銀縁めがね、Tシャツ、ジーンズ、茶の革靴の、そいつが僕の正面に立って、興味深そうに僕の演奏を観ていた。
僕は20年近く前に自分で作った奇妙な曲を弾いていた。
ちなみに、僕は楽器屋で試奏するときは、自分の曲を演奏することに決めている。
僕は人一倍プライドが高いから、人前でミスをすることが嫌なんだ。
自分の曲なら、もともと原曲を誰も知らないから、澄ました顔して弾いていれば、誰にも間違いは気付かれないだろう?
さて、宇宙人君は僕が演奏を終えると、ほとほと感心したっていう顔をして尋ねてきた。

「驚いたなぁ、その曲をどこで教わったのです?」

僕は自分が作った奇妙な曲に興味を持ってもらったことがとても嬉しくて、照れながら答えた、「いいえ、今のは僕のオリジナルです」と。
宇宙人君は「そんなはずはない。私は昔、今の曲を聴いたことがある」とびっくりするようなことを言った。
僕が「いったい、どこで聴いたのですか」と尋ねると、彼は「故郷の星で…」と言った。そして「もし、時間があれば、コーヒーでもどうですか」と訊いてきたので、僕も自分の作った曲を、聴いたことがあるというこの男に興味が出てきたので、一緒に近くのスターバックスで話をすることにした。

「私は地球人ではないんですよ」と彼。
「僕はキャベツから生まれたんですよ」と思わず言おうとしてしまったが、彼のまじめな顔を見て怖くなってやめた。
「白鳥座ってご存知ですか」と彼。
「知ってますよ、行ったことはありませんが」と僕。
「そこにはたくさんの太陽系があると思ってください。私は、その中のある惑星からやってきました」と言って、財布から名刺を出した。
「宇宙の平和を守る会、地球支部、日本担当、淺川芳之助、よくわからないけど、すごいですね。ずいぶんオーソドックスな名前ですね」と僕は感心して言った。
「もちろん名前は地球ネームで、本名ではありません。本名はこれです」と言って名刺の裏を見せた。
「バーコードですね。何と読むんです」と僕。
「うまく言語で表現できません。とにかくこれが本名です」と彼。
「具体的にどんな活動をなさってるんですか」と僕。

「地球人が宇宙の平和を乱すことのないよう、常に監視しています」と彼。

しばらく二人で宇宙の平和について語り合った。
自称『宇宙人』君は「オゾン層の破壊だけは、なんとしても抑えなくてはならない」とがっかりするくらい常識的な「自説」を力を込めて語っていた。
僕は一番興味のあった、僕のオリジナル曲をどうして知っているのかを尋ねた。
「別に知っていたわけではありません。地球で聞いたことのない曲だったので、もしかしたら、同郷の方かと思って、声をかけたのです」
なんだか、さっきの話と違ってきたぞ、と思いながら、違う質問をしてみた。
「あなたの星の音楽に似ているのですか」
「全然似ていません。私たちの星の音楽を馬鹿にしないでください。もっとずっとまともな音楽です。あなたの弾いていた曲は、私たちの星では音楽とは言いません。あの曲を言語で表現するとしたら、単なる音の集合体とでもいったものです」
僕はこれほど侮辱されたにもかかわらず、よくぞ、初めて会った人間に対して、これほど失礼で正直な感想を言えるものだなぁと感心してしまった。
うっかり『ほんとに宇宙人かもしれない』と思いそうになってしまった。
僕も負けじと「僕の作った曲は、地球人には全く理解されなかったので、もしかしたら、宇宙人のあなたなら理解してもらえるかなと少し期待していました」と真顔で言った。
彼は、一瞬、しまった!という顔をして、唾をごくんと飲み込んでから「あの曲を地球人が理解することは無理でしょう。僕にはわかりますが」と言って汗を拭った。

僕は、これ以上一緒にいると、彼を苛めてしまいそうなので、今日のところは別れることにした。
帰りがけにローソンで、彼にもらった名刺の裏のバーコードを読んでもらったら、彼の本名は「カルビー・ジャガリコ・サラダ・118円」ということが分かった。

超短編シリーズはフィクションです。念のため

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