キリンの兄弟(3) トウモロコシ畑
連続冒険小説(第三回) 作:入来院重宏
第3章 トウモロコシ畑
マッキーは憧れのシチリア島に来て、鼻歌を歌っているような気分で大好きな「ニュー・シネマ・パラダイス」の物真似をしていただけだったけれど、いつの間にか彼のまわりには人だかりができて大騒ぎになっていた。マッキーの一人芝居に誰もが感激し、夢中で拍手をし、褒めちぎり、体に触り、尻尾をひっぱったりした。
そしてたくさんの人がマッキーに話しかけてきた。
「斑模様のキリンさん。あなたいったいどこから来なさった」
「名前はなんていうんだい。斑模様も見事だけど、あんたの一人芝居は最高だよ。どうだい一杯やっていかないか。もちろんおいらがごちそうするよ」
「キリンさん、あんたが「アルフレード、アルフレード」って叫ぶと映画を思い出して涙が止まらないよ」
マッキーはいろいろ話しかけられてその都度まじめに答えていたが、いい加減疲れてきた。考えてみたら宿のあてもないし、どうしようかと思っていたとき、40歳くらいのおじさんが話しかけてきた。
「今晩泊まるとこは決めているのかね。よかったらうちに泊まらないか。いいや金はいらない。その代わり寝たきりのおばあちゃんにあんたの「一人ニュー・シネマ・パラダイス」見せてやってくれないか」
マッキーは心の中で『マッキー!じゃなかったラッキー』と叫んだ。
シチリア島の初日、マッキーは寝たきりのおばあちゃんの住む、この40歳くらいのおじさんのお家に泊まることにした。
40歳くらいのおじさんのお家まではちょっと距離があった。二人は自己紹介しながらてくてく歩いた。おじさんの名前は「サルヴァトーレ・ヴィッツーニ」といった。
「長くて言い難いですね。いっそのこと僕が四股名をつけてあげましょう。そうニックネームのことです。「サル」なんてどうです」マッキーは乳豊の真似をしてサルヴァトーレ・ヴィッツーニにあだ名をつけてあげた。
サルヴァトーレ・ヴィッツーニは鼻をほじくるのを止めた。
「サルじゃまるで「猿」って呼ばれているみたいだね。きみのようにキリンなら「猿」と呼ばれても腹も立たないだろうけど、俺は人間だから「猿」と呼ばれるのはちょっと抵抗あるなぁ」サルヴァトーレ・ヴィッツーニは口を尖らせて不満そうな顔をした。
「なぁサルヴァトーレ・ヴィッツーニ、たしかに僕はキリンだけど、だからといって「猿」と呼ばれて嬉しいはずないじゃないか。うーんそれなら「レヴィ」はどうだろう」
「レヴィか、うんそれは気に入った。今日から俺は「レヴィ」だ」
美しい夕焼け雲がシチリアの空を染め始めていた。
さて、その頃、ニッキーはお店の改装の手伝いや帳簿の整理で忙しかった。
「ごめんくださいだゾウ」お花屋に近所で工務店を経営している象さんがやってきた。彼は鼻が長かったので皆から「鼻長象」と呼ばれていた。
「やぁ、鼻長象さんいらっしゃい」
「改装中すまないけどお花を買いに来たんだゾウ。今日はお袋の誕生日だからお花をプレゼントしようと思ってるんだゾウ。適当に見繕って欲しいんだゾウ」
「そりゃ感心だ。鼻長象さんは孝行息子だね。改装中で花の種類が少ないから気に入るのができるか不安だけど、その分お安くしとくよ」
「それはかえってありがたいゾウ。ところで前から訊こうと思ってたんだけど、なんでキリンさんのお店はいつも象の歌を流してるの」
「?象の歌なんか流していないよ。もしかして今流してるこの曲のことかい」
♪増産増産 お花が長いの寝そうよ 傘も長いのよ♪
「これはお花の歌だよ。お花を増産する歌さ」
「違うよ、「増産」じゃなくて「象さん」だよ」
♪象さん象さん お鼻が長いのね そうよ母さんも長いのよ♪
「本当だ。言われてみると確かにそう聞こえる。これは象さんの歌だったんだね」
「そうだゾウ。だけど考えてみると君たちキリンさんを歌った歌を僕は知らないんだゾウ。
犬、猫、馬、人間、鯨、イルカ、ライオン、猿、虎、鼠、牛、兎、ヘビ、羊、山羊、亀、ドブネズミ、赤鼻のトナカイ、赤とんぼ、鳩、すずめ、エトセトラ、エトセトラ。
たいていの動物は自分たちの歌を持ってるのに、なぜ君たちキリンの歌はないんだい」
言われてみれば確かにそうだ。自分たちキリンを歌った歌をニッキーも聴いたことがないという事実に今更ながら気づいた。
ニッキーはふと、乳豊が「君たちのテーマ曲を作ってあげる」と言っていたことを思い出した。
「歌を作る知り合いがいるんだ。近いうちに僕ら三兄弟の歌を作ってもらうことになっているんだ」ちょぴり得意げに口走ってしまった。
店を早めに閉めて、ニッキーはさっそく歌を作ってもらおうと乳豊のお家に向かった。
ニッキーは乳豊が「僕の家は夕陽丘の向こうのトウモロコシ畑の中」と言っていたのを思い出して夕陽丘をずんずん登っていった。
しばらく歩くと夕陽丘の頂上にたどり着き、丘の向こう側を眺めると確かに乳豊の言うとおり広大なトウモロコシ畑が広がっていた。
そしてよく見るとトウモロコシ畑の真ん中に小さなお家があった。
「あれが乳豊関のお家か。身体に似合わず小さなお家だなぁ」ニッキーは乳豊のお家を発見して嬉しくなって駆け足で夕陽丘を下っていった。
お家のそばに来ると、乳豊が庭で土いじりをしていた。
「どすこい乳豊関」ニッキーが声をかけると乳豊が振り向いた。
「やぁニッキーこんなところで何してるの」
「どすこい乳豊関、お願いがあって会いに来ました。ところで庭いじりですか」
「いや、土俵を作ってるんだよ。僕の夢はトウモロコシ畑をつぶして土俵を作ることだったんだ。後2ヵ月もすればここに立派な土俵ができる。実のところこんなに早く夢が叶うとは夢にも思わなかった」
「どすこい乳豊関、それは変わった夢ですね。わざわざトウモロコシ畑をつぶして土俵を作らなければいけない理由はあるんですか」
「そりゃあ相撲を見たいからさ」
「どすこい乳豊関、土俵を作るなら何もトウモロコシ畑をつぶしてまで作らなくても」
「ニッキーは男女ノ川と双葉山の一番を見たいと思わないかい」
「男女ノ川と双葉山ですか。強い者同士ですか」
「うん強い強い。2ヵ月後においで。きっと大一番が見れるよ」
「どすこい乳豊関、大事なお願いを忘れていました。乳豊関に僕ら三兄弟の歌を作っていただきたいのです」
「お安い御用だ。土俵を作るよりよっぽど楽だよ。♪キリンの三兄弟♪川の中~そーと覗いてみてごらん♪そーと覗いてみてごらん♪仲良くお花を売ってるよ~♪どうだいこんなの」
「どすこい乳豊関どっかで聞いてことある曲ですよ。だいたい川の中でお花売ってないし」
「歌なんていい加減なものさ。まぁいいや明日またおいで、それまでに作っておくよ」
「ごっつぁんです乳豊関。よろしくお願いします」
ニッキーは多少の不安を残しつつトウモロコシ畑を後にした。
(つづく)
この物語はフィクションです。登場人物や地名等は実在の人物・動物等、実際にある地名等となんら関係ありません。