キリン社会保険労務士事務所 コラム

キリンの兄弟(2) ニュー・シネマ・パラダイス

連続冒険小説(第二回)  作:入来院重宏

第2章 ニュー・シネマ・パラダイス

『花の貴公子クッキー・マッキー・ニッキーの店』
キリン三兄弟の生花店の看板が新しく書き換えられた。

「首長キリン」「斑キリン」「二本角キリン」といえば地元では知らない者がいないくらい有名になっていたけど、せっかく乳豊関が四股名をつけてくれたので今後は、「クッキー」「マッキー」「ニッキー」という名前でそれぞれ生きていくことに決めた。
実のところ、何事にも慎重な長男は改名に抵抗していたけど、今回も次男の斑キリンに押し切られた形で渋々納得したのであった。
そこでさっそく自分たちの店の名前「首長キリン・斑キリン・二本角キリンの花の店」も変えることにし、さらにせっかく新しい店名にするのだから「花の貴公子」としゃれた形容詞を頭につけることにした。このアイデアもマッキーの発案だった。

たまたま花が出ない時季ということもあって、看板の書き換えや店名変更に係わるいろいろな事務処理もいっぺんに済ませることにし、併せて店内の大幅な改装もすることにした。ただし、完全に店を閉めると、いつあるかわからないお葬式に迷惑がかかるので改装期間は三男のニッキーに店に出てもらうことにして長男のクッキーと次男のマッキーは長期の休暇をとることにした。

駅伝選手のクッキーは楽しみにしていた訓練合宿に入った。
マッキーは夏の目玉にしたいと考えている「ひまわり」の提携先を確保するため南イタリアに向かった。

何事にも慎重で長男としての責任感の強いクッキーは、合宿期間中も毎晩「足長」でニッキーからその日の報告を受けていた。
「マッキーは今頃美女に囲まれてワイン飲んでスパゲティたらふく食べているんだろうね」
「そうだね。ところでクッキー兄さんの調子はどうなの」
「練習不足がたたってるよ。来年開催の駅伝ワールドカップの予選までには何とか本調子に戻さないとね」
「まさか兄さんが予選に落ちるようなことはないでしょう」
「いや、強敵が現れたよ。今年の箱根駅伝でY大学の5区を走った黒キリンが大学を卒業して国に戻ってきた。昨年までキリン枠は僕の指定席だったけど今年は黒キリンと争うことになる。実のところ今の僕の実力じゃ危ない。選手に選ばれるかどうかは、この合宿の出来次第と言っても過言じゃないんだ」
「黒キリンについてはいい話を聞かないよ。」
「ニッキー、人の噂をそのまま信じちゃだめだ。スポーツ選抜でQ大学に行った僕と違い、黒キリンは一般受験で難関Y大学に受かっている。彼は4年間、厳しい駅伝トレーニングと高度な学問の両立を見事にこなしてきた。そんじょそこらのキリンにできる芸当じゃない」

クッキーは箱根駅伝初のキリンランナーだった。今でこそ駅伝は人気スポーツの一つに数えられているが、クッキーはわが国の駅伝競技界のパイオニアとして常に注目されてきた。
クッキーは穏やかな性格で目下の面倒見もいいので、彼を慕う若いランナーも多かった。黒キリンもクッキーを慕う後輩ランナーの一人で、クッキーも黒キリンの人格や才能には一目置いていた。

黒キリンは、その名のとおり全身が漆黒の毛に覆われている美しいキリンだった。彼の父は彼と同じように漆黒の毛に覆われ、やっぱり黒キリンと呼ばれていた。黒キリンの父は彼が幼いときに白系キリンの団体に所属する乱暴者数名から身に覚えのない因縁をつけられリンチを受けた。数年後、黒キリンが中学1年生のとき父はリンチの後遺症が原因で死亡した。
黒キリンは人種差別の残るこの国を自らが政治家になって変革することを亡き父に誓い猛勉強を続けた。そして、この春、難関Y大学を主席で卒業して帰郷していた。国に戻った黒キリンは定職に就かず、またこれといった目立った活動をしていなかったが、そのことがかえって噂を生み、その噂がまた次の噂を生み、いつしか黒キリンは本人も知らない間に「危険人物」になってしまっていた。

「一度その黒キリンとやらにお会いしてみたいものですな」
クッキーとニッキーが振り向くと、声の主はなんと乳豊だった。
「黒キリンはやっぱり言い難いですな。クロキリンだからクッキーがいいけど、既にクッキーはいらっしゃるからブラッキーではどうだろう。ブラックキリンのブラッキーです。気に入ってくれるといいですが」
いつの間にか現れた乳豊は相変わらずご機嫌だった。

「おや、今日はお一人足りませんね。マッキーはどうされました」
「どすこい乳豊関、せっかく助言いただきましたがやっぱりひまわりの販売することにしました。今マッキーは買い付けに出ています」
「なるほど、そうでしたか。ひまわりは英語でサンフラワー、お部屋に飾ればパット明るくなってよござんすね。僕は好きですよ。そりゃそうとお二方、たんぽぽはいけませんよ、あれば英語でダンデライオン、「ライオンの歯」という意味です」
「・・・」
「・・・」
「して、マッキーはどちらに」
「どすこい乳豊関、マッキーはイタリアに向かいました。今頃はブーツの爪先あたりだと思います」

マッキーはブーツの爪先から船でシチリア島に渡っていた。マッキーにとってイタリアとはローマでもパスタでもロベルト・バッジョでもアルマーニでもフェラーリの国でもなかった。彼にとっては大好きな映画「ニュー・シネマ・パラダイス」の国であり、ソフィア・ローレンやクラウディア・カルディナーレやシルバーナ・マンガーノといったグラマラスな女優の国だった。
マッキーがひまわりの買いつけにイタリアを選んだのはS・ローレン主演の傑作「ひまわり」が頭にあったからだった。彼にとってひまわり=S・ローレン=イタリアだった。こうと思ったらとにかく行動してしまうマッキーはとりあえずイタリアに入国した。(といってもパスポートの写真の肌の色と実際の肌の色が違うとクレームをつけられ入国にはそうとう手間取った。)そしてイタリアに入ったとたん、今度はどうしても「ニュー・シネマ・パラダイス」の舞台のシチリア島に行きたくなってしまいそのまま島に渡ってしまった。

「トト、二度とここには来るんじゃない」
「アルフレード、アルフレード」
「トトここはなんて書けばいいんだ」
「あんたって子は何度言ったらわかるんだい」
「アルフレード、アルフレード」

マッキーは「一人ニュー・シネマ・パラダイス」をしながらシチリアの町を歩いていた。島民は美しい斑模様のキリンに目を奪われたが、注意深く見ていると彼がトトやアルフレード、母、神父等の役を見事に使い分けて完璧に「ニュー・シネマ・パラダイス」再現しているの知って非常に驚いた。
美しい斑キリンの「一人ニュー・シネマ・パラダイス」はあっという間に多くのシチリア島民の知るところとなった。


(つづく)

この物語はフィクションです。登場人物や地名等は実在の人物・動物等、実際にある地名等となんら関係ありません。

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