超短編シリーズ④「童話 やさしいお母さん」
あるところにエルゼという、とても賢い女の子がやさしいお母さんと二人で暮らしていました。
ある日エルゼはとなり村に住む、タロウという少年の噂を耳にしました。
なんでもタロウは遠い遠いヤパンという国から、たった一人で歩いてやって来たとのことでした。
タロウはたいそう牝牛をかわいがり、その村の誰よりもたくさん牝牛の乳を搾ることができると評判でした。
賢いエルゼは、なんとしてもこのタロウを見てみたくて、お母さんに頼みました。
「お母さん、私はとなり村に住むタロウという子をどうしても見てみたいの。明日の朝早く出かけて、となり村に行ってくるので、お母さんは、私より早く起きて、お弁当をつくってちょうだい」
お母さんは、「ああ、いいよ」と返事をしたものの、心の中では、「困ったものだ、となり村に行くには深い深い森を通らなければならない。森には怖い人食い魔女が住んでいるし、さて、どうしたものだろう」
エルゼはお母さんのそんな心配をよそに、もう寝床に入って、ぐうぐういびきをかいて寝てしまいました。
翌朝、エルゼが目をさますと、まくらもとにお弁当がありました。
お母さんが早起きをして、エルゼのために作ってくれたのでした。
エルゼはお礼を言おうとして、お母さんを探しましたが、お母さんはどこにもいませんでした。
エルゼは「きっとお母さんもタロウが見たくなって、先に出かけたんだわ」と言うと、お母さんに追いつこうして、走って家を出ていきました。
その頃、お母さんはエルゼになりすまして、森の中を歩いていました。
やさしいお母さんはエルゼが魔女に食べられないように、自分がエルゼの身代わりになるつもりでいたのです。
「魔女さん、魔女さん、私は村で一番賢い娘、エルゼよ。魔女さんがほんの少しでも勇気というものを持っているのなら、私と知恵比べしたらいかが」お母さんは大きな声で叫びながらずんずん深い森の中に入っていきました。
しばらくすると森の中に小さくてかわいらしい小屋が見えてきました。
お母さんはきっと魔女が住んでいるにちがいないと思って、トントンとドアをノックしました。
ドアが開いて中から真っ赤な目をした魔女が顔を出してこう言いました「なんだね、こんな朝早く、何かようかい」
お母さんは、やっとお目当ての魔女に会えたので、嬉しくなりましたが、深呼吸をして落ち着いてから言いました「私は村で一番賢い娘、エルゼよ。魔女さん、あなたにほんのすこしでも勇気があるのなら、私と知恵比べしたらいかが」
魔女は、何のことかさっぱりわからなかったが、ほんのすこしでも勇気があるのなら、というところが妙に気になって「ああ、いいよ、なんなりと」とこたえました。
お母さんは「おーいと叫ぶと、おーいと答えるものは、なあに」と質問しました。
魔女は笑って「あはは、そんなのは簡単さ、やまびこだよ」と言うと、あっという間にお母さんをその大きな口で飲み込んでしまいました。
しばらくするとエルゼが魔女の住んでいる小屋をみつけました。
エルゼはずっと走ってきたので、ほんのすこし喉が渇いていたので、水をもらおうと思い、ドアをノックしました。
しばらくすると魔女がドアを少し開けてそのすきまから顔を出して言いました「まったく、なんて日だよ、またお客さんかい、今度は何のようだい」
エルゼは真っ赤な目をした魔女を見て、ほんのすこし怖くなりましたが、勇気を出して言いました、「私は村で一番賢い娘、エルゼよ。やさしいお母さんの作ってくれたお弁当をもって、となり村にタロウを見にいくところ。だけど、お母さんが先にタロウを見に行ったものだから、追いつこうとして、ずっと走ってきたの。ほんのすこしだけ喉が渇いてしまったので、お水をいただけませんか」
魔女はエルゼの話を聞き終わると、顔を目と同じくらい真っ赤にして、怒って言いました「この娘はなんて嘘つきなんだい。エルゼならさっき食べたばかりだよ」
そう言うとあっという間にその大きな口でエルゼを飲み込んでしまいました。
超短編シリーズはフィクションです。念のため