キリンの兄弟(21)ギルバート
連続冒険小説(第二十一回) 作:入来院重宏
第21章 ギルバート
異星人に占拠されたコントロールタワーはその昔、日本の天皇の居住地である皇居のあった場所にある。そして、この皇居のあった東京はその当時日本の政治や経済の中心だった。
レヴィとトーマスの二人が出会ったのは皇居跡の二重橋前の広場だった。この辺りは昔も今も日本を代表するオフィス街だが、現在東京は戒厳令が布かれているため、広場に限らず街をぶらぶらしている人間のほとんどがアンドロイドだった。
レヴィとトーマスが初めて会話を交わした時から何時間経ったろうか、そろそろ日も暮れかかる頃、二重橋前の広場がにわかにざわつき始めた。
「大通りで何かやってるな」レヴィとトーマスの二人は人山をかき分け騒ぎのする大通りの前まで出てくると、広い大通りの真ん中を東の方角から3人のゴリラと1人のキリンが歩いくるのが見えた。
よく見ると、キリンの首には3本のロープが巻きつけられていて、3人のゴリラが各々ロープを持っていた。どうやらゴリラ警官がキリン犯罪者を捕まえて署に連れていくところのようだ。 「トーマス、あのキリンは俺の友達だ」
「えっなに!」レヴィの言葉にトーマスは驚いた。
「お前にさっき話したろう。あのキリンはハリチン共和国で花屋をやっている友達のマッキーだ」
「独り芝居の天才キリンか」
「そうだ。なぁトーマス、なんでマッキーがここにいるんだ。しかも何で警察に捕まってしょっぴかれてんだ」
「レヴィ、人違いじゃないか」
「人違いなものか。斑模様といい背格好といい顔つきといいマッキーに間違いない。あいつきっと俺を探しにここまできたんだ」
「シチリア島からお前さんを探しにここまで追っかけてきたっていうのか。いったいなぜ」
「それは俺が教えてほしい。おばあさんに何かあったのかな」
レヴィとトーマスが興奮しながらああだこうだと言っているうちに、ゴリラとゴリラに引っ張られたキリンは二人の前を通り過ぎて行った。
レヴィはしばらくの間遠ざかっていく4人の後姿を眺めていたが、彼らの姿がすっかり見えなくなると、トーマスに話しかけた。
「トーマス、俺はこれからマッキーを助けにいく」
「ああ、たぶんそう言うと思っていたよ」トーマスは驚きもせずこたえた。
「短い間だったけど、お前と話ができて楽しかったよトーマス。縁があったらまたどこかで会おう」
「レヴィ、俺はいやだよ」トーマスはむっとした表情でこたえた。
「マッキーがお前の大事な友達であるように、俺にはレヴィ、お前が大事な友達だ。お前一人じゃどうにもこうにも危なっかしいだろう。俺もマッキーを助けるのに一肌脱ぐぜ」
数時間が経過した。
すっかり夜も更けた東京の中心は、街そのものがまるで息をじっと潜めた生き物のようだった。その、静寂の中に一触即発の緊張がぴんと張り詰めた夜の東京の街をレヴィとトーマスの二人が、昼間ゴリラとキリンが歩き去って行った西の方角に向かって歩いていた。
10分も歩いただろうか、1丁目くらい先の角に警官らしい人影が見えた。
レヴィはトーマスに目で合図をするとトーマスは軽く頷いた。
「このぼけ!お前のせいで一文無しになっちまったじゃねえか!どうしてくれるんだ」レヴィは突然大声で怒鳴りだした。
「なにおうっ!お前が一文無しになったのはお前の責任だろ!なんでもかんでも俺のせいにするな」
「くー、このタコ野郎」」レヴィはトーマスの胸ぐらを掴んだ。
「おーいそこの二人、何してる」警官らしい人影が叫びながら走ってきた。
さっきは暗くてよくわからなかったけど、近づいてきたのはやはり警官だった。身長が2メートルくらいありそうなごついゴリラの警官だった。
「お前たち外出禁止令が出ているのを知らないのか。こんな時間にこんなところで何している」
「何って、俺たちが何かしているように見えますか。俺達ただ話をしてるだけですぜ」レヴィはトーマスの胸ぐらから右手を離すと警官に向かってとぼけて答えた。
ゴリラ警官はさらに二人に近づくとトーマスに向かって話しかけた「おい、お前今この男に胸ぐらを掴まれていたね。喧嘩してたのか、それともこの男に強請られていたのか、正直に言いなさい」
「強請られていたなんてとんでもない。こいつ博打ですっからかんになったものだから、むしゃくしゃしておいらに八つ当たりしていただけですよ」
トーマスの話を聞き終わるとゴリラ警官の顔がみるみる赤くなって叫んだ。「なにっ博打だと!いったいどこで博打をやってたっていうんだ。」
見るからに強そうなゴリラ警官がトーマスの話を聞くやいなや怒り狂わんばかりに上半身を左右に揺らしながら両手を振り回し始めたのでレヴィとトーマスはすっかり震え上がってしまった。
ゴリラ警官は、ポケットから手錠を出すとレヴィの左手とトーマスの右手にかけた。
「お前たち、この非常時に博打とはふざけた馬鹿どもだ。どこで誰と何をやってたのかこれから署に行って洗いざらいすべて吐いてもらうぞ。この俺様に見つかったのが運のつきだ。生まれてきたことを後悔させてやる」
「お巡りさん、署にだけは連れていかないでくれ。それだけは勘弁してくれよ。あんたの言うことは何でも聞くから。後生だから署にだけは連れていかないでくれ。お願いだよ」レヴィは泣きながらゴリラ警官に訴えた。
「金なら少しばかりあるんだ。お巡りさん」そういうとトーマスはポケットからいくらかの札を出してゴリラ警官に見せた。
「俺が賄賂を受けとると思うのか。いったい俺を誰だと思っているんだ。さっさと歩け」ゴリラ警官はレヴィとトーマスを歩かせると、二人の後について上半身を左右に揺らしながらのっしのっしと歩き始めた。
「なんで地球に住んでいるのはお前たちみたいなろくでなしの人間ばかりなんだ。もっとまともな人間は月や火星や人口星にだっていくらでもいるんだろうに」
5分くらい歩くと、前方に物凄く背の高いビルが見えてきた。
この辺りは高層ビルが建ちならんでいる地帯だけど、そのビルは中でもひと際高い高層ビルで、コントロールタワーほどではないが、その半分の1500メートルくらいはありそうだった。
このビルの下から10分の1くらいまでの下階層部分が真夜中にもかかわらず、どの窓からも電灯の光が漏れていた。
レヴィは、そのビルの電灯がついている明るい部分が警察署だろうと推測した。そして、ゴリラ警官に聞こえないように、こっそりと小さな声でトーマスに「きっとあのビルが警察署のビルだ」と話すと、トーマスは「うん、俺もそう思う」と小さな声で答えた。
案の定、目的地はそのビルだった。
ビルの入口付近には大勢の警官が立っていた。やっぱりゴリラが多いけど、ゾウ、ライオン、トラ、シロクマなどもいた。
ビルに入ると、ゴリラ警官はしばらくの間受付のチンパンジーと打ち合わせをしていたが、それが済むとレヴィとトーマスに向って「ようし、ろくでなしども、さっそく話を聞かせてもらおうと思ったが、どうも今晩は人手が足りなくて無理らしい。運のいいやつらだ」と言ってすたすた歩いてどこかに消えてしまった。
何が何だかよくわからなかったが、あっけにとられる間もなくレヴィとトーマスは手錠をはずされて怪力のシロクマ警官に腕をつかまれてそのまま牢にぶち込まれた。
「明日早いからさっさと寝たほうがいいよ」シロクマ警官は丁寧にそういうと、牢に鍵をかけてやっぱりどこかに行ってしまった。
シロクマ警官がすっかりいなくなってしまうと、レヴィは聞き耳をたてた。どうやら近くに警官や係官がいないことを確認すると「おーいマッキーはいるかぁ、俺はレヴィだ。お前を助けに来たぞぉ」と叫んだ。
「なんだなんだ」
「何を騒いでるんだ」
「誰を助けるって」
あっちこっちの牢からいろんな声が聞こえてきたけどマッキーからの返事はなかった。
「係官に迷惑かかるから騒がないほうがいいよ」レヴィとトーマスの二人が入った牢と廊下を挟んだ反対側の向かいの牢から声がした。
レヴィが向かいの牢に目をやるとベッドに腰かけているキリンが見えた。レヴィは目を凝らしてよく見るとそのキリンはまさしくマッキーだった。
レヴィはびっくりして叫んだ「おい相棒、そんなとこにいたのか!俺だよレヴィだよ。サルヴァトーレ・ヴィッツーニだよ。お前俺を探しに東京まで来たんだろう」
キリンは無表情のままベッドに腰かけてレヴィを見ていた。
「おいマッキー、どうしちまったんだ、俺を忘れちまったのか。なにか言えよ」
キリンはゆっくり立ち上がり廊下の方に歩いてくるとレヴィに向って口を開いた。
「僕は君を知らない。君は人違いをしてるよ。僕はマッキーじゃない。ギルバートだ」