キリンの兄弟(19) 東京暗黒化計画
連続冒険小説(第十九回) 作:入来院重宏
第19章 東京暗黒化計画
「わけないよ。太陽を黙らせればいいのさ」
「どすこい乳豊関、わ、わけないって、いったいどういうことですか?しかも「太陽をだまらせる」って、いったい何のことですか?」
ブラッキーは、乳豊の言葉に驚いて、冷静な彼には珍しくすっとんきょな声を出した。
「確かに太陽を黙らせるっていう言い方は正しくないな。太陽の光を遮断すればいいんだよ。そんなに難しいことじゃない」
ニッキーとブラッキーは「足長」で軽くビールを飲み、その足で乳豊の家に向かった。
夕陽丘の頂上からトウモロコシ畑を眺めると、畑の真ん中に夕陽に染まった乳豊の家が見えた。さらに目を凝らすと庭の手作りの土俵に乳豊がいるのがわかった。どうやら土俵は出来上がったらしかったし、乳豊は鉄砲をしているようだった。
乳豊の家に着くと乳豊は喜んで二人を家の中に入れた。ニッキーとブラッキーは最近起こった驚天動地の大事件とそのために自分たちが近くクッキーと一緒に東京に向かうことを手短に乳豊に話した。
乳豊は大きなバスタオルで上半身の汗を拭いながら黙って二人の話を最後まで聞いていた。そして口を開いて言ったのが冒頭の言葉だった。
乳豊は続けた。
「光はアンドロイドのエネルギーの源の一つだからね。世界中から東京にアンドロイドが集結しているのなら、東京をしばらくの間真っ暗にしてしまえばいいのさ。そうすればアンドロイドは動けなくなる」
「どすこい乳豊関、真っ暗にしちゃうとアンドロイドは死んじゃうの?」
ニッキーが驚いて尋ねた。
「いや死んだり壊れたりというわけじゃないよ。例えるとしたら、そうだな、亀は冬の間冬眠するだろ、長時間光に当たらないとアンドロイドはスイッチ・オフ状態になって、ちょうど亀の冬眠と似たようにな状態になるのさ」
「どすこい乳豊関、アンドロイドを動けなくするには何時間くらい東京を暗くすればいいのですか」
乳豊の話を聞いてブラッキーは少し興奮してきた。
「120時間は必要かな。丸5日間だね。丸5日間東京を真っ暗にすればアンドロイドは身動きとれなくなる。どんな武器を使うかわからないけど、君たちが生身で挑んでも無駄だ。アンドロイドに歯が立つわけない。それより5日間太陽の光を遮断するのさ。そうすれば戦わずして地球を取り戻すことができる」
「どすこい乳豊関、太陽の光を遮断する方法なんてありますか」
「5日間くらい東京一体を真っ暗にするくらいなんてことはない。コントロールタワーにそう命令すればいいんだ」
「どすこい乳豊関、そのコントロールタワーが異星人に占拠されているから困っているんです」
「ああそうか。そうだった。そうするとちょっと難儀だね。でもきっと何か方法があるよ。少し考えてみよう」
そう言うと乳豊の表情が少し真剣になった。
ニッキーとブラッキーはちょっぴりがっかりした。
乳豊は目をつむると両腕を組んで考えこんだ。
ニッキーとブラッキーは、考え事を始めて動かなくなった乳豊を黙って見つめていたが、3分もするとそろそろじれったくなってきた。
「一緒に行こう」突然乳豊は口を開いた。
「ここで考えていても時間の無駄だ。僕も君たちと一緒に東京に行くことにしたよ」
「えっ!」ニッキーとブラッキーは驚いて叫んだ。
「うん、この一大事にのんびり四股踏んで過ごしているわけにもいかないよ。それに僕は力士だからね。君たちの話が本当なら国技館もどうなっているのか心配なんだ」
「どすこい乳豊関が一緒に来てくれると聞いたら、クッキー兄さんも喜びます」
乳豊の話にニッキーは飛び上らんばかりに喜んだ。
「ひょっとするとひょっとするよ」乳豊はそう言うと居間の中を時計と反対回りにぐるぐる歩き始めた。
「これはひょっとするとひょっとするなぁ」
「どすこい乳豊関、ひょっとする、ひょっとするっていったいなんのことですか」
ぐるぐるせわしく歩き回る乳豊を見ながらブラッキーが質問した。
「ひょっとするとやっかいなことになるかもしれないなぁ」
「どすこい乳豊関、ひょっとするも何も、もうすでにそうとうやっかいなことになってますよ」
「うん、だけど、もしかしたら君たちの想像以上にやっかいなことになるかもしれない」
「そ、それは死者が大勢出るってことですか」ニッキーが叫んだ。
「早くうまく治めないと宇宙規模の戦争になりかねないってことさ」
「宇宙規模!」ニッキーがまた叫んだ。
「君たちの話によると、ようするに異星人は地球を人質にとっているわけだ。彼らがコントロールタワーを操縦しているとすると、現実問題として地球人は彼らに手を出すことはできない。コントロールタワーを占拠している異星人はもちろん、地球外からやってくるであろう異星人にもだ。地球の周りを回る無数の防衛衛星が壁となって、どんな小さな船も地球の引力圏に入ることはできないんだ。地球を守るために配備された防衛衛星に皮肉にも地球人が攻撃されることになってしまうわけだね。異星人の部隊の規模がどの程度なのかは想像つかないけれど、彼らは地球人が手を出せないことをいいことにコントロールタワーの指示のもと悠然と地球に降り立つことになる。地球人は異星人にまんまとやられてしまうという筋書きだ」
「どすこい乳豊関、異星人たちを地球にやってくる前にやっつけちゃう、ということはできませんか」
「ニッキー、そんなことをしたらコントロールタワーを占拠している異星人に何をされるかわからないだろう。乳豊関が地球を人質にとっているというのは、そのことを言ってるんだよ」
「ブラッキー、それは僕もわかっているよ。だけど地球の外にいる人間が本当に黙って異星人が地球に入るのを見ているのかな」
「ブラッキー、ニッキーのいう通りさ。そう筋書どおりうまくいくかどうか。地球人が異星人が地球に入っていくのを本当に指をくわえて見ているか怪しいぜ。」
「それはどうかなぁ」ブラッキーは首をひねった。
「たとえ平和的解決をもって異星人と共存するとしても、コントロールタワーを占拠されている限り、主導権は異星人が握っている。ようするに共存というのは、地球人が異星人の奴隷になるということだ。地球人が異星人の奴隷になることを受け入れるわけがない。とすれば、戦うしかない。戦うとしたら異星人を地球に入れてからでは手遅れだ」
「どすこい乳豊関、このまま異星人のコントロールタワー占拠が続けば戦争は避けられないということですか」ブラッキーが尋ねた。
「主導権を握っているのは異星人だから、彼らの出方次第かな。僕が異星人なら次の一手をどうするか・・・結局のところコントロールタワーを奪取するしか解決策はなさそうだ。やはり今なんとしても必要なのは「東京暗黒化計画」だ・・・たとえばこういう方法も考えられる」
そういうと乳豊は歩き回るのを止め、紙と鉛筆を持ってニッキーとブラッキーに説明をはじめた。
「巨大なテントをコントロールタワーに被せるんだ」そう言いながら乳豊は円錐を描いた。
「コントロールタワーを柱にした巨大なテントを作るんだ。タワーは皇居跡地の中心に立っているんだけど、跡地の面積は115万㎡だから逆算すると半径約600mの円の中心に直径300mのタワーが立っていることになる。アンドロイドは皇居跡地の外側に集まっているようだけど、跡地は真円じゃないから、アンドロイドはおおよそコントロールタワーから距離にして200mから500mの周りから壁を作っているはずだ。そうすると仮に厚さ500mの壁を作っているとするとコントロールタワーの中心から1,150mの距離くらいまでアンドロイドが壁を作っていることになる。テントは高さ3,000mのコントロールタワーにすっぽり被せるから、半径1,150m高さ3,000mの円錐形のテントを作れば、たぶん、とりあえず、アンドロイド全員を閉じ込めることができるだろう。仮に余裕をみて半径2,000mの円錐形テントを作るとして、テントの面積は高さ3,000m、半径2,000メートルの円錐の側面の面積だから、√13㎞×2㎞×π≒23k㎡、ようするに、ほぼ5㎞四方の布地が必要になる計算だ」
「一辺が5kmの布地!」ニッキーが驚いて叫んだ。
「うん、光を一切遮断し、しかも丈夫な一辺5㎞の布地をコントロールタワーに被せるんだ」
「どすこい乳豊関、そんな大きなテントを作ることが物理的に可能でしょうか」ブラッキーが質問した。
「テントを作ること自体は不可能じゃないよ。100万件の家庭がそれぞれ5m四方の絨毯を1枚ずつ持ち寄って貼り合わせればできる。だけどそれをコントロールタワーに被せる方法が思いつかない」
「船がいったい何機必要になるかな」ニッキーが質問した。
「ニッキー、自分で言っていてなんだけど、たぶん5km四方の布地を空からコントロールタワーに被せるのは不可能だと思う。それより、こういう方法はどうだろう、コントロールタワーを傘の柄に見立てて、まずそこに骨をかけて骨に布地を被せていくのは」
「どすこい、骨をかけるというのはどういうことですか」今度はブラッキーが尋ねた。
「僕が今思いついた案はこうだ、巨大な大砲の弾に丈夫なワイヤーをつける、そして、その弾がコントロールタワーの向こう側に届くように、タワーの頂上に向けて大砲を撃つんだ。たとえば、タワーから3,000m離れた場所から撃って、高さ3,000mのタワーの頭を通り越して反対側3,000mの場所に弾が落ちるように放物線の打ち出し角度の計算とかして大砲を撃つ。そうすればワイヤーがタワーのてっぺんにひっかかって、一度に2本の骨ができる」
「どすこい乳豊関、なるほどです。骨は何本くらい必要ですか。テントを張る作業を考えたら、なるべく多いに越したことないですね」ブラッキーは、興味を持ち始めたのか身を乗り出してきた。
「そうだね。仮に今の話の続きで半径3,000メートルのテントを張るとすると、周囲は約18.8キロになる。地上での骨と骨の間隔、すなわち間隔の一番広い部分を100mと設定すると、骨は188本必要になる。1発の大砲で2本の骨ができるから、大砲は94発撃つ計算になる。空から見るとコントロールタワーを中心とした巨大な正188角形ができるわけだ」
「どすこい乳豊関、骨が188本の巨大な傘を作るということですね」
(つづく)
この物語はフィクションです。登場人物や地名等は実在の人物・動物等、実際にある地名等となんら関係ありません。