キリン社会保険労務士事務所 コラム

キリンの兄弟(18) ノーマ・ジーン

連続冒険小説(第十八回)  作:入来院重宏

第18章 ノーマ・ジーン

ニッキーとブラッキーが「足長」で乾杯をしていたちょうどその頃、シチリア島のレヴィの家の居間でマッキーとテラタンは古い本を食い入るように見ていた。

「しかしこれはどう見てもレイや」
「そうだね。僕もレイは、ちょっとマリリン・モンローに似ているなとは思ったけど、マリリンの若い頃の写真見たことなかったからね。まさかこれほど似ているとは」
「他人の空似とはいうけど、それにしてもそっくりや。親子で似ているというレベルも逸脱している。これはレイや。レイそのものや」
「だけどテラタン、マリリンの、しかもこんな若い頃の写真がレヴィの家にあることなぜ知ってたの」
「ずっと前、やっぱりなんかの用でレヴィが留守のときにおばあさんの話し相手をしとってな。おばあさん映画好きでやたらと詳しいからいろいろ教えてくれたんや。そのときこの写真集も見せてくれたんやね。これはマリリンが15歳くらいのときだからきっとレイも15歳くらいじゃないか」
「レイは僕のことをいつもギルバートって呼ぶから、僕は今度レイをマリリンって呼んでみようかな」
「ノーマ・ジーンや」
「ローマ人?」
「いや、ノーマ・ジーンや。マリリン・モンローは芸名や。マリリンはこの頃はノーマ・ジーン・ベイカーや。だからレイにあったらノーマ・ジーンって呼ぶんや」
「ノーマ・ジーンか。よし、そうだ。テラタン今からレイの家に行ってみない」
「何を言ってるんやもう夕方やで。またにしようや」
「テラタンのヘリコプターならすぐだよ」

マッキーはおばあさんに出かけることを告げるとテラタンの手を引っ張って外に出た。テラタンも諦めて渋々マッキーについていった。

パラパラと3分くらい飛んだだろうか。テラタンは適当な空地を見つけるとヘリコプターを着陸させた。

「たしかこのあたりや」
テラタンはレイが書いてくれた地図を見ながらあたりをキョロキョロ見回した。
「おーいテラタンここだここだ」
ずんずん先を歩いていったマッキーが古くて小さな家の前で手を振っている。
その家は少し黄色がかった白いレンガ造りの平屋建てて小さな窓から少し光が漏れていた。
テラタンがはぁはぁ息を切らしてやってくるとマッキーは大きな一枚板でできた家のドアをノックした。
しばらくするとドアが少しだけ開き、白髪頭のおじいさんがドアの隙間から顔を出した。
「何か用かね」
おじいさんは怪しいものを見るような疑い深い目つきでマッキーとテラタンの顔をじっと眺めた。
マッキーが「あの・・こちらに・・」と言ってもじもじしていると、マッキーの声を聞いたレイが家の奥から走ってやってきた。そしてドアを大きく開いてマッキーを見つけると叫んだ。
「あらマッキーどうしたのこんな時間に」
マッキーはレイの顔を見ると一呼吸あけてゆっくりと口を開いた。
「こんばんわ、ノーマ・ジーン」
マッキーはいたずらっぽい目でレイの目を見つめて挨拶した。
「ノーマジーン?」レイはきょとんとした顔でマッキーを見た。

「君は今なんと言った!ノ、ノーマ・ジーンと言ったのか?!」
そう言うと白髪頭のおじいさんの顔からみるみる血の気が引いていった。

「・・・はい、レイさんはいつも僕をギルバートと間違えるから、僕も仕返しにレイさんをノーマ・ジーンと」
白髪頭のおじいさんは震える手で胸ポケットから眼鏡を取り出してかけるとマッキーを見た。
「言われてみれば君はギルバートにそっくりだ。本当にギルバートじゃないのか」
「はい、僕はマッキーです。ギルバートじゃありません。彼は友人のテラタンです」
マッキーに紹介されて、テラタンは仕方ないといった態度で一歩前に出てぺこりとおじぎをした。
白髪頭のおじいさんは眼鏡を少し上にずらすと頭のてっぺんから爪先までじろじろとテラタンを眺め「ふんっ」と鼻から息を出しそしてまたマッキーの顔を見た。
「それで君はなぜレイにノーマ・ジーンと言ったのだ」
「マリリン・モンローの少女時代にレイさんがあんまりそっくりなもので。ノーマ・ジーンというのはマリリンの本名です。さっきテラタンから聞いて知ったのですが」
血の気の引いた白髪頭のおじいさんの顔を見ているうちにマッキーは今回のいたずらを少し後悔し始めていた。
「お父さんマリリンなんとかって誰?」レイが横から口をはさんだ。
「お父さん?!」マッキーは驚いて叫んだ。
「そうよ、おかしい?さっき話した父よ」レイはそう言うと白髪頭のおじいさんに突然家にやってきたこの二人がさっき話した新しい友達だと説明した。

「それにしてもお父さんどうしたの、凄く顔色が悪いわ」
白髪頭のおじいさんの顔はすっかり血の気が引いて表情も強張って目や口の動きも何かぎこちなかった。
「いやなんでもない大丈夫だ。マリリン・モンローというのは大昔の映画女優だ。このキリンさんはレイがマリリン・モンローの若い頃にそっくりだと言ってるんだ」
「えっそうなの!そんなこと今まで言われたことなかったわ。私ってマリリンなんとかにそんなに似ているの?」
「似ている似ていないなんてものじゃない。あんたはマリリンがマリリンになる前のノーマ・ジーンだった頃のマリリンにそっくりや。こんなことなら写真集持って来るんだった」そう言うとテラタンは悔しがってパチンと指を鳴らした。

「レイ、いつまでも玄関で立ち話もなんだから二人に入ってもらいなさい」白髪頭のおじいさんはレイにそういうと居間のソファに向かって歩き始めた。

「マッキーにテラタンよく来てくれたわ。狭い家で窮屈でしょうけどお茶いれるからゆっくりしてってね」
レイはウィンクをして二人を家の中に招き入れた。

「さぁお二人ともこちらへ」
レイのお父さんだという白髪頭のおじいさんは居間の肘掛椅子にゆっくり腰を下ろすとマッキーとテラタンに声をかけた。

引越しの片付けはまだ済んでいないのか、部屋の中はまだ解いていない荷物があちらこちらに積んであった。二人は荷物の山と山の間を恐る恐る歩き、居間に辿り着くと白髪頭のおじいさんの肘掛椅子の向かいのソファに腰かけた。

相変わらず白髪頭のおじいさんの顔色は悪かったけど表情は幾分和らいでいた。
彼はほんのしばらくの間マッキーとテラタンの顔を交互にながめてから「私はレイの父の黒神です」と言った。
「キリンさんとお猿さん、失礼だがお名前もう一度教えていただけるかな」
「僕はマッキーです。ハリチン共和国から一月ほど前に仕事でこの町にやってきました。故郷では兄弟3人で花屋を営んでいます。今は縁があって知り合った友人のレヴィの家にお世話になっています」
「わてはテラタンいいます。いろいろと商売をやってきましたが現在は食用のひまわりの栽培をしてます」
「テラタンさんは、さっき、写真集がどうのって言ってましたな」
「はぁ、おばあさんが・・・おばあさんといってもわてのおばあさんじゃおまへんえ。レヴィのおばあさんや。このおばあさんがまたごっつぅオールド・ムービーに詳しくてな。ジェームス・ディーンの大ファンなんやけど、ほかにも大昔の映画スターのこれまた古い古い写真集をぎょうさん持ってましてん。この中にマリリン・モンローの写真集もありましてな。この写真集にマリリンがまだマリリンになる前のノーマ・ジーンの写真が載ってますのんや」
「マリリン・モンローの写真集ですか。そりゃぁ珍しい。是非見てみたい」白髪頭のおじいさんは興奮しているようだった。
お茶を持って台所からやってきたレイが口を開いた。
「おばあさんの家なら私知っているから今度連れてってあげるわ、お父さん」
「そうやレイのおとうさん、レイとレヴィの家に遊びに行くといい。おばあさんは病気でほとんど寝たきりだから二人が行けばそりゃきっと喜びますわ」そう言うとテラタンはパチンと指を鳴らした。
「わかりました。さっそく近いうちにレイとお伺いします」そういうと黒神はお茶をごくりと飲みほしてレイにおかわりを催促した。

部屋の中をきょろきょろ観察しながら皆の話を聞いていたマッキーだったがまるで大事なことを思い出したと言わんばかりに突然右前足を挙げると「ちょっとすみません、いいですか」とことわりを入れてからしゃべりだした。
「そうそうレイのおとうさん、僕が四股名を考えてあげましょう」

(つづく)
この物語はフィクションです。登場人物や地名等は実在の人物・動物等、実際にある地名等となんら関係ありません。

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