キリンの兄弟(17) 軍隊派遣
連続冒険小説(第十七回) 作:入来院重宏
第17章 軍隊派遣
さて、その頃東京はパニックに陥っていた。
東京は高級官僚や科学者などの特権階級が2千万人以上住んでいる大都市である。この大都市が異星人にコントロールタワーを占拠されてからというもの、あらゆる情報が遮断され、都市の機能は停滞したまま再開の兆しは見えなかった。 さらにその上、路上、公園を問わず、あらゆる場所がコントロールタワーを目指して集まってきたアンドロイドで溢れかえっていた。
コントロールタワーはその昔、まだ日本に天皇が存在していた頃皇居として使用されていた土地の中心部に位置している。この東京の中心にあって広大な敷地は、さらに時代を遡れば城があった所なので、周囲は濠で囲まれている。アンドロイドたちはこの濠を取り囲むようにして何重もの層を作った。鳥のように空からこの風景を眺めるとその人垣の幅は厚いところで数百メートルに及んだ。
20人ほどという異星人らしき姿は空から見ても敷地内に探すことはできない。彼ら異星人たちはコントロールタワー本体建物の中に籠城しているようだった。
コントロールタワー本体は直径約3百メートル高さ約3千メートルの円柱形の建造物である。これほど巨大な施設でありながら、タワーの運営管理はすべてタワー自身が行っている全自動の無人建築物である。このタワーは、
① 地球の外からの侵入や攻撃を防ぐ防衛機能
② 地震や台風などの災害を未然に防ぐ環境制御機能
③ 人口惑星の制御機能
④ 地球内外のあらゆる情報を制御する機能
⑤ 地球上のすべての生物に関する情報の管理
⑥ 地球内外の全ての人間の情報の管理
⑦ 人類が所有するすべての情報の管理
⑧ 地球内外すべてのアンドロイドの制御
などの仕事を行っていた。
異星人に占拠されている現在、タワーが何を行っていて、何を行っていないのか判断つきかねていたが、異星人がタワーを操作・制御できていることは間違いなさそうだった。
一方、コントロールタワーを異星人から奪還するために世界中の軍隊が東京を目指すべく準備を進めていた。コントロールタワーが軍隊に対しては空路の使用許可を出さないため兵隊や軍事物資の輸送には海路を使用するほかなかったが、大型船を所有する国は少なく、多くの国が船を確保することから始めなくてはならなかった。
ハリチン共和国には、兵や軍事物資を大量に輸送できるような大型船がもともと1隻もなかったが、これから新たに作る時間的余裕もなかったので解体を予定していた古い日本の輸送船を3隻買い取り修理して使うことになった。
船の準備が整うまでの時間は、兵隊の訓練に充てられることになった。政府が慎重に人選した兵の数は、ゴリラ300人、チンパンジー200人、象とキリンとライオンとヒョウが各々150人、チーターとカバとサイとバッファローが各々100人で合計1,500人だった。この数はハリチン共和国の人口の約0.1%だが、この0.1%という対人口比が各国に割り当てられた兵の数だった。1,500人と言えば一般的には1師団にも満たない数だが、ハリチン共和国は小国だったのでこれでも仕方がないというほかなかった。
ハリチン共和国軍は、上の10種類の動物グループからなっており、それぞれの動物グループが軍隊の最小単位を形成しており、その中には1人の隊長と隊長を補佐する副隊長が2人~6人が含まれていた。
キリン隊の隊長に任命されたクッキーは、まず、他の動物グループの隊長たちと10日間にわたっての泊まり込みの特別教育や訓練を受けることになった。ブラッキーとの駅伝合宿が終わったと思ったら、思いがけず、すぐに軍事合宿訓練に突入することになってクッキーも店をあずかる弟のニッキーもただただとまどうばかりだった。
さて、地球には人間の他に高度な知能を持った大型動物は全部で27種類いる。ハリチン共和国の国民を構成しているのは、そのうちの10種類の動物とわずかな人間だった。(その「わずかな人間」の多くが実はアンドロイドだった。)
現在の大統領の黒ゴリラは、本名を「黒ゴリラ4世」といい、ほんの10年前までは約400ヘクタールのトウモロコシ畑を所有する比較的裕福ではあるが平凡な農業経営者だった。誠実な人柄で人望が厚く、地域住民に乞われるようにして政治の世界に足を踏み入れた。黒ゴリラ自身はもともと野望があって政治家になったわけではないが、知り合った誰からも信頼されるそのキャラクターでめきめき頭角を現し、あれよあれよという間に大統領まで上り詰めてしまった。
ゴリラはハリチン共和国の人口の20%を占めているため、政治的な影響力も他の動物とは比較にならないほど大きいものをもっている。この国は今年で建国90年の比較的新しい国で、初代から現在までの15人の大統領のうち7人がゴリラで、他はチンパンジー3人、象とキリンが各2人、カバが1人だった。
歴代大統領の約半数がゴリラだが、一般的には、ゴリラの特性である温厚さと調和を好む性格が政治に向いていると言われており、現在の大統領の黒ゴリラの評判もすこぶるよく、国民からの支持率も高い。
その昔、「百獣の王」と言えばライオンを指す言葉だったが、実際のライオンはその攻撃的な性格が、この長く続いた平和な時代の政治に向かなかったのか、現在まで大統領はおろか大統領候補者すら出ることがなかった
クッキーがキリン隊の隊長として特別訓練に参加して2日目の午後、ニッキーがいつものように花屋で店番をしていると、そこに突然白キリンが現れた。
白キリンはニッキーに、副隊長として隊長のクッキーを補佐する気があるか尋ね、ニッキーは白キリンの提案を喜んで受け入れた。
『クッキー兄さんといっしょに地球の平和のために戦える』ニッキーは嬉しくなって、早速このことをブラッキーに伝えようと思ったが、考えてみたらブラッキーがどこに住んでいるのか知らなかった。
仕方がないのでニッキーは、ブラッキーを探しに「足長」に寄って、会えなければそのまま夕陽丘の向こうまで乳豊関に会いに行こうと考えた。まだ外は明るい時間だったけど、ニッキーはそうと決めたら居ても立っても居られなくなって、さっさと店を閉めて外に出た。ニッキーは「足長」に着くと窓から中を覗いた。すると、いつもの席でブラッキーが一人で生ビールを飲んでいた。
ニッキーは店に入ると「よく一人で飲みに来るの?」とブラッキーに声をかけた。「いいや、ニッキー、君がくるのを待っていたんだ。遅かったじゃないか」ブラッキーはそう言うと右前足を高く上げ、ニッキーにビールを持って来るようボーイに合図した。
「どうして僕が来ること知っていたの?」ニッキーは驚いて尋ねた。
「いや、ここにいれば君に会えると思ってね。君に報告することがあるのさ、僕は君の兄さんと日本に行くことになった」
「へっ?」ニッキーはさらに驚いて突拍子もない声を出した。
「昼頃、突然白キリンがやってきて、僕に黒神博士を探すのを手伝って欲しいと言うのさ。黒神博士は謎の多い人物で、ここ数年、直接彼に会ったことがある人はほとんどいないらしい。どうも僕は博士と直接会ったことのある数少ない者の一人らしいんだ。二つ返事で承諾したよ。僕もこの事件には大いに関心があるからね」
「僕のところにも、今日、白キリンが来た。僕はクッキー兄さんの補佐で日本に行くことになったんだ」
「本当!それは素晴らしい」
そこにボーイが生ビールのなみなみと注がれた大ジョッキを持ってきた。
「我ら三人の出陣を祝して乾杯だ」
(つづく)
この物語はフィクションです。登場人物や地名等は実在の人物・動物等、実際にある地名等となんら関係ありません。