キリン社会保険労務士事務所 コラム

キリンの兄弟(16) 黒神レイ

連続冒険小説(第十六回)  作:入来院重宏

第16章 黒神レイ

レヴィのいないレヴィの家

居間でテラタンと謎の少女が向かい合って座っている。
マッキーは台所でお茶の用意をしている。
レヴィのおばあさんは相変わらず自分の部屋で横になっているけど、ぶつぶつ独り言がところどころ居間まで聞こえてくる。

「さっきあんたが言ってたギルバートって誰や。あんたの友達か。マッキーと間違えるくらいだからやっぱり斑模様のキリンか」
テラタンが少女に話しかけた。
「ええ友達よ。斑のキリンなの。マッキーにそっくりの」
そういうと少女は台所で忙しく働くマッキーをちらっと見た。
「あんたこの辺の人間じゃないね。どこから来たの」
「日本よ」
「日本か。じゃぁギルバートは日本にいるんだね」
「そうね。日本にいるわ」
「じゃあマッキーがギルバートのはずないとちゃう」
「そうね。でもあんまりギルバートに似てるから」

マッキーがお茶を持ってやってきた。
「二人で何話してたの」
「この子は日本から来たんや。ギルバートは友達でマッキーにそっくりなんやと」
「へぇ日本から来たの。ところで名前は」
「おおそうや肝心の名前を聞いてなかった。3人揃ったところで自己紹介といこうや。まずわしから。わしの名前はテナガオランウータン。四股名をテラタン。気安くテラタンと呼んでくれな。わしはここから10キロ位南に行ったところでひまわりを作ってるんや」
テラタンは手振り身振り表情豊かに早口でまくしたてた。
「僕の名前はマッキー。ハリチン共和国で兄と弟の3人で花屋を経営していることはこの前話したよね。憶えているかな。この島にはひまわりの買い付けにきたんだ。このことも話したよね。
この家は友達のレヴィの家なんだ。レヴィは10日くらい前から行方不明でね。僕は今ここでレヴィの寝たきりのおばあさんの世話をしているんだ」

自己紹介は最後の少女の番になった。
テラタンとマッキーはじっと少女の顔を見つめていた。
少女は二人に見つめられて少し緊張したのか頬を赤らめた。
「私は、黒神レイ。ここへは父の仕事の関係で来たの。今住んでいるのは市場のそばの部屋が4つきりの小さな借家だけど結構気に入ってるわ。父の仕事のことはよくわからないけれどしばらくこの町に滞在することになりそうよ」

「黒神レイさん」マッキーが少女の話をさえぎった。
「レイでいいわ」少女が笑いながら答えた。
「それじゃあ黒神レイさんの四股名はレイということで。ところでレイ、ギルバートはそんなに僕に似ているの?」
「ええ、二度も間違えるくらいですから」
「ふうん。僕の故郷のハリチン共和国にはキリンがたくさんいるけど、それでも僕は他人と間違えられたことはないなぁ。日本にもたくさんキリンがいるの?」
「いいえ、日本は寒い国だからキリンは少ないわ」
「だけど僕みたいなキリンは大勢いるの?」
「いいえ、ギルバートみたいな、というか、マッキーみたいなキリンはギルバートしか知らないわ」
「ギルバートにも斑模様がある?」
「ええ、もちろん」
「ギルバートの背格好や首の長さも僕みたい?」
「ええ」
「顔は?ギルバートの顔は僕に似ている?」
「ええ、そっくりよ」
「不思議だなぁ。僕には兄弟が二人いるんだけど、三人が三人とも全然似ていないんだよ。背格好、顔かたち、毛並み、あと性格も、全然似てないんだ。遠く離れた日本に僕そっくりなキリンがいるなんて、なんだか信じられないなぁ」
マッキーとレイの話を聞いていたテラタンが指をパチンと鳴らした。
「そうや、レイ、あんさん写真持ってないか。ギルバートの写真」
レイは少し考えてからゆっくり口を開いた。
「たぶん1枚くらいギルバートと撮った写真があると思う。探してみるわ」
「それと・・」マッキーが言いにくそうに右前足で首の後ろを掻きながらレイに話かけた。
「日本人ってみんな君みたいに色が白いの?」
「えっ?」レイはマッキーの意外な質問に少し驚いたようだった。
「実はハリチン共和国に日本人の友達がいるんだけど、その友達の肌の色が君の肌と同じようにまるで牛乳みたいに白いんだ。友達は男で関取なんだ。四股名は「乳豊」っていうんだ」
「日本人もイタリア人もハリチン共和国の人も人間の肌の色は同じよ。住んでいる国は違っても、キリンと違って人間は1種類しかいないのよ。私のこの白い肌は突然変異だし、マッキーのお友達の乳豊さんも私と同じで突然変異よ。人間は地球に住んでいるのは極々わずかだけど宇宙に住んでいる者を全部合わせれば800億人とも900億人とも言われているの。それだけ大勢いれば私みたいな肌の色の白い突然変異もそれなりの数いるのよ。それに突然変異は障害者だから皆地球で暮らしているの。」
「障害者?」マッキーが驚いて尋ねた。
「ええ、肌の色が白いだけで障害者。肌が黒い人だって障害者よ」
「家族は?レイの家族は?」テラタンが尋ねた。
「父がいるわ。普通の人間よ。母や兄弟はいない。父一人子一人」
「お父さんの仕事の関係でシチリア島に来たんだったね」
マッキーがそういうとレイは頷き、そして立ち上がった。
「遅くなると父が心配するからそろそろ帰るわ」
「そうだね。また遊びにおいで」マッキーも立ち上がった。
「そうや、今度はわいがひまわり畑を案内するわ」テラタンも立ち上がった。
マッキーとテラタンはレイを玄関まで見送った。
レイは二人に向かってにっこり微笑むと足早に帰って行った。
「かわいい子や」テラタンが独り言のように呟いた。
「うん、あんなにきれいな子見たことないよ」マッキーも呟いた。

(つづく)

この物語はフィクションです。登場人物や地名等は実在の人物・動物等、実際にある地名等となんら関係ありません。

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